学習、スポーツ、学級の活動で華やかに活躍する生徒がいます。実に羨ましいですよね。
人は、そこに目がいきやすいものです。教員も同じです。そして、活躍する生徒を育成することに力を注ぎがちになっている気がします。
活躍できるように生徒を育成するのは悪いことではありません。しかし、教員がどこに目を向け、何を仕掛けていくべきか、ここで立ち止まって考えてみましょう。
部活動の出来事
ある野球部2年生、ベンチメンバーの生徒がいました。その生徒は、中体連最後の試合が終わっ後、3年生からこんな言葉をかけられます。
「いつも、朝30分早く来て、練習付き合ってくれてありがとう。最後のヒットはお前が打たせてくれた。」
「俺たちにも毎日投げてくれてありがとう。こんなに打てたのは、お前の力があったからだ。毎日何百球も大変だったよな。」
「あいつの守備が上手くなったのは、お前がひた向きに練習しているからだ。お前がいなかったら、あいつは危機感ややる気、目標をもって練習してたとは思えない。」
「これからお前たちの代だ。心の底から応援してるからな。頑張れよ。」
彼の活動の軌跡
彼は、3年生の指名を受けて、自分の練習をせずに、毎朝バッティングピッチャーを引き受けていました。そして、放課後は他の3年生のためにバッティングピッチャーをしました。
また、自分の守備練習やバッティング練習では、誰よりも頑張っていました。それが練習嫌いなレギュラー選手に良いプレッシャーをかけていたのです。
試合での彼の活躍の場はありませんでした。
彼の思いを聞いた。
「先輩に、朝練付き合ってくれって言われてやっていただけだし、自分がコントロールが良いからバッティングピッチャーなら役立てると思っていただけ。あんなに感謝されるとは思っていなかった。」
「あと、自分が努力しているのを認めてもらえただけで嬉しい。そして、それが誰かの役に立っていたのは知らなかった。これからも誰かの役に立ちたいし、自分の努力に妥協しないで頑張っていく。」
彼は、誰かの役に立つことの喜びと、自分の努力の大切さを実感したのではないだろうか。
さらに、他の人の頑張りを感じること、それを伝えることの大切さも捉えているかも知れません。
教員の視点と仕掛け
①まずは『支える活動』を生み出す必要があります。上記の事例では、「先輩が彼に朝練に誘う」ことがスタートとなっています。顧問の先生は、そのように仕掛けた可能性があるし、自然発生した可能性もあります。ただ『支える活動』がなければ、上記の事例は起きることはないので、教員は何らかの仕掛けをしていく意識が必要になります。
②『支える活動』を見守り、継続できるようにします。
③選手たちに、自分の活動や自分の努力だけではなく、仲間の行動や仲間の努力に目を向けるように仕掛けます。一番簡単な仕掛けは雑談の中でするのがいいでしょう。選手に「誰が一番頑張ってる?」「どんな努力をしてるの?」「○○君は、最近頑張って見えるけど、どう思う?」などと。
簡単に書きましたが、軸がブレずに仕掛ける必要があります。ゴールは、上記の事例のようなやり取りを生み出すことです。
生涯学習として考える。
生徒たちは将来、職業をもち、お金を稼ぐようになります。その稼ぎ方を考えると、スポーツ選手として活躍し、観客を魅了することでお金を稼ぐ生徒は稀です。多くの生徒が、誰かの役に立ったり、誰かに喜ばれたりしてお金を稼ぐようになります。
ならば、誰かの役に立つこと、誰かの喜びをつくること。そしてそれを自分の喜びとして実感できることは、身に付けるべき資質・能力でしょう。
そんな理由からも、教員は活躍する生徒だけではなく、支える生徒に目を向けていく必要があります。
当然、活躍する生徒が誰かを支えることはできるし、そんな生徒を育成したいものです。
学級の活動、生徒会活動、学習活動などでも同じ。
「私は、中学3年間で先生から褒められた記憶がない」という人に会ったことがあります。
話を聞くと、学級委員など人の前に立つなんてできない。委員ができるほど責任感はないし、勉強も苦手。しかし、勉強の努力はしていたし、みんなの活動の邪魔をすることはしたことがないと言います。おとなしく、目立たない生徒だったようです。
それを聞いて、「その時の教員が『支える生徒』の育成を意識し、そこに視点をあてることをしていれば、褒められたことがないという寂しい思い出はなかっただろう。」と思いました

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