子どもを「指示」だけで動かさない―言動ではなく、心に働きかける

「静かにしなさい」
「もっと声を出せ」
「ちゃんと話を聞きなさい」

学校では、こんな言葉をよく耳にします。

教師がそう言いたくなる気持ちは分かります。

今は静かにした方が、みんなが話を聞ける。
チームで声を掛け合った方が、よいプレーにつながる。
人の話をしっかり聞くことは、その子の成長につながる。

つまり教師は、子どもにとって、その方がよいと判断しているのです。

その思いは大切です。

でも、子どもが教師の思いとは違う言動をした途端、

「静かにしなさい」
「声を出せ」
「聞きなさい」

と、その言動だけを直接変えようとする。

それでは少し、考えが浅いのではないでしょうか。

本当にその姿が子どもの成長に必要だと考えているのなら、言動を制御するだけではなく、子ども自身がその行動を選ぶよう、心に働きかける必要があります。

目次

「言った」と「そうしようと思った」は違う

たとえば、全校集会があります。

教師は事前に、

「今日は静かに話を聞くんだよ」

と伝える。

ところが集会が始まると、だんだん落ち着かなくなり、隣の子と話し始める。

すると、

「静かにしなさい」
「さっき言ったよね」

となる。

でも、暑い。
話が長い。
自分には関係のない話だと感じる。

そんな状態になることは、ある程度予想できます。

それなのに、

「今日は静かにするんだよ」

と事前に言っておけば静かにできると考えるのも、結局は「静かにする」という言動を先に指示しているだけです。

問題は、教師が**「言った」ことと、子どもが「そうしよう」と思ったことを同じにしてしまうこと**です。

人は、言われただけで能動的に動くわけではありません。

「やりたい」というモチベーションがある。

あるいは、

「これは自分にとって意味がある」
「今はそうするべきだ」

という納得感がある。

そんなときに、その行動を自分から選びやすくなります。

だから教師が考えるべきなのは、

「どう言えば静かにさせられるか」ではなく、「どうしたら、この子たちは静かにして聞こうと思うだろうか」

ということです。

言動ではなく、心に働きかける

では、心に働きかけるとは、どういうことでしょう。

「静かにすることには、こんなよさがあります」

と教師が説明すればよい、ということでもありません。

教師が考える一つの理由を、全員に納得させることでもありません。

子どもの関心や目標、価値観、そのときの状況を考えながら、

その活動が本人にとってどんな意味をもつのか

に働きかけるのです。

何が心を動かすかは、人や状況によって違います。

だから教師は、

「何を言えば、この子には響くだろう」
「何なら、この集団は意味を感じられるだろう」

と考える。

心理学の自己決定理論でも、外から求められた行動には、外的な圧力によって行う場合から、本人がその価値や有用性を認め、より自律的に行う場合まで違いがあると考えられています。

学校で求めるすべての行動を、子どもが「やりたい」と思うわけではありません。

それでも、

「やってみたい」

あるいは、

「やりたいわけではないけれど、これは大切だからやろう」

となれば、教師にやらされているだけの行動とは違います。

これが、私の言う**「心に働きかける」**ということです。

「声を出せ」も同じ

部活動で、

「もっと声を出せ!」

と指導する場面も同じです。

疲れてくる。
試合で負け始める。
思うようなプレーができなくなる。

そうなれば、声が小さくなることは予想できます。

そこで「声を出せ」と怒鳴る。

あるいは事前に、

「苦しくなっても声を出すんだぞ」

と言っておく。

どちらも、まだ「声を出す」という言動への働きかけです。

本当に声を掛け合うことがチームに必要だと考えているなら、

なぜ声を掛け合うのか。
自分たちは、どんなチームでありたいのか。

そこに日頃から働きかけておく。

「仲間のために声を出したい」
「こういうときこそ声を出すべきだ」

という思いがあれば、声は本人から出てきます。

教師に出させられた声ではなく、自分の思いから生まれた声です。

心が動けば、行動は能動的になる

こうした働きかけには、もう一つ意味があります。

「集会だから静かにしなさい」

と、その都度行動だけを教えていれば、場面が変わるたびに、また教師の指示が必要になります。

一方で、

なぜ今、この行動を選ぶのか

まで考える経験を重ねれば、

「今はどうすることが、自分や周りにとってよいのか」

を別の場面でも考えられるようになっていきます。

教師が育てたいのは、言われたとおりに動く子ではありません。

自分で考え、よりよい行動を選べる子です。

その場の言動だけを追いかけない

教師が「こんな姿になってほしい」と願うのなら、その場で子どもの言動を制御するだけで終わらせない。

「どうしたら、この子たちはそうしたいと思うだろう」
「どうしたら、その意味に納得できるだろう」

そこまで考えて、事前に心へアプローチしてみる。

生徒の心を動かすことに努めるのです。

心が動けば、子どもの言動もきっと変わってきます。

教師に動かされるのではなく、子ども自身が能動的に動き始めます。

参考文献

Ryan, R. M. & Deci, E. L.(2000)“Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions.” Contemporary Educational Psychology, 25, 54–67. doi:10.1006/ceps.1999.1020

Reeve, J. & Jang, H.(2006)“What Teachers Say and Do to Support Students’ Autonomy During a Learning Activity.” Journal of Educational Psychology, 98(1), 209–218. doi:10.1037/0022-0663.98.1.209

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