教師は、子どもが成長するために働きかける仕事です。
だから、子どもが相手との立場やその場の状況を理解し、適切な言動を選べるようになることも、教師が育てたい力の一つです。
「そんな言い方をしないよ」
「先生には、もう少し丁寧に話そう」
「今は、どんな言い方がいいかな」
私たちは子どもの言葉を指導します。
でも、その前に。
教師自身は、立場や状況に応じた言葉を使えているでしょうか。
丁寧ならよい、わけではない
授業中、教師からこんな言葉を聞くことがあります。
「教科書を開いてください」
「話を聞いてください」
もちろん、「してください」が間違った日本語なのではありません。
本当に相手にお願いする場面なら、それでいい。
一方で、教師として「今は話を聞く必要がある」と判断しているのに、いつも「お願いします」「してください」で済ませているなら、少し考えたいところです。
反対に、何でも「○○しなさい」と命じればよいわけでもありません。
危険な行為を止めるなら、「止まりなさい」と明確に指示する必要もあります。
大切なのは、どの語尾が正しいかではありません。
今の自分はどんな立場で、相手とはどんな関係にあり、何を伝える場面なのか。
それに合った言葉を選ぶことです。

自分の言葉なのに、責任を外へ置いていないか
「来週の予定は○○になります」
自分で決めたことなのに、どこかから決まって降りてきたような言い方をする。
あるいは、
「校長先生が○○するように言っています」
と、自分はその判断と無関係であるかのように伝える。
誰かの考えを伝えること自体が問題なのではありません。
それを聞いた自分はどう考えているのか。なぜ相手に伝えるのか。
自分が伝える以上、自分の言葉として引き受ける。
言葉には、責任の置き場所も表れます。

何を求めているのか、曖昧にしていないか
「○○してほしいと思います」
これもよく耳にする言葉です。
本当に「してくれたらうれしい」という希望なら、それでいい。
しかし、実際には教師として「これはやる必要がある」と判断しているのに、「してほしいと思います」と伝える。
それでは、お願いなのか、指示なのか、教師自身の意図がぼやけます。
逆に、自分にそこまでの権限がないのに、「○○させます」「○○しなさい」と言うこともあります。
自分は何を求めているのか。
自分には、相手にそれを求める立場や権限があるのか。
そこを考えれば、選ぶ言葉も変わってきます。
子どもの言葉は、立場や状況を教えるチャンスになる
例えば学級委員が、クラスのみんなに、
「静かにしてください」
と言ったとします。
間違いではありません。
でも、
「お願いする必要ないよ。静かにするべきだって考えているんでしょ」
と一緒に考えることができます。
自分も同じクラスの一員として、みんなで静かにしたいのなら、
「静かにしよう、でいいんじゃないかな」
と。
また、教師の指示を聞いた子が、
「先生が座れってさ」
と伝えたらどうでしょう。
「そんな言い方をしません」で終わらせず、
「あなたは先生の話を聞いて、どう考えたの?」
と聞く。
自分も必要だと考えたのなら、
「みんな、座ろう」
と自分の言葉で伝えればいい。
さらに、上級生が後輩について、
「グラウンドを走らせます」
と言ったなら、
「あなたは、人を走らせる立場じゃないよ。偉そうに聞こえちゃうよ」
と返すこともできます。
言葉を直しているようですが、本当に教えているのは言葉だけではありません。
自分と相手の立場を考えること。
その場の状況を判断すること。
そして、それに合った言動を選ぶこと。
言葉の指導を通して、そこまで教えることができます。
言葉を学ぶことは、立場や関係を学ぶこと
語用論では、言葉を使う力には、文法的に正しい文をつくることだけでなく、相手や場面に応じて、どのような言葉を使うかを判断することも含まれるとされています。
また、「言語社会化」という研究では、子どもは日常の言葉のやり取りを通して、言葉そのものだけでなく、社会的な役割や立場、人との関係も学んでいくと考えられています。
日本の幼児教育を対象にしたBurdelskiの研究でも、教師が子どもに言葉を示したり促したりしながら、礼儀に関わる言語行動を身につけさせていく過程が分析されています。
つまり、
言葉を教えることは、言葉だけを教えることではない。
その言葉を使う相手との関係、自分の立場、その場でどう振る舞うかを考えることにもつながります。
だから、まず教師の言葉から
子どもには、相手との立場やその場の状況を理解して、適切な言動を選べる人になってほしい。
そのために、教師は子どもの言葉に働きかけます。
だからこそ、その前に自分の言葉を見直したい。
「いつもこう言っているから」ではなく、
なぜ、今、この言葉を使うのか。
子どもの言葉を指導する教師だからこそ、まず自分が、立場や状況に応じた言葉を使えるようになる。
教師が自分の言葉を正しく使うことから、子どもへの言葉の指導は始まります。
参考文献
Burdelski, M. (2010). Socializing politeness routines: Action, other-orientation, and embodiment in a Japanese preschool. Journal of Pragmatics, 42(6), 1606–1621.
Burdelski, M., & Cook, H. M. (2012). Formulaic Language in Language Socialization. Annual Review of Applied Linguistics, 32, 173–188.
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